
スマートフォンの通信性能は、CPUやGPUの性能だけでは決まりません。基地局と通信するためのモデムや、電波を送受信するアンテナなども重要な役割を担っています。
同じ5G対応スマートフォンでも、機種によって通信速度や電波の安定性に違いが生じるのはそのためです。
スマートフォン向けSoCでは、QualcommのSnapdragon、MediaTekのDimensity、AppleのAシリーズ、GoogleのTensorなどが知られています。近年はXiaomiのXRINGのように、スマートフォンメーカーが独自SoCの開発を進める動きも見られます。
この記事では、主要メーカーのモデム技術と通信性能の違いを整理しながら、日本でスマートフォンを選ぶときに確認したいポイントを解説します。
モデムとは? スマートフォンの通信を支える仕組み
モデムは、スマートフォンと携帯電話基地局の間でデータを送受信するための通信処理を担う装置です。スマートフォンでは、SoCにモデムが統合されている場合もあれば、SoCとは別のモデムチップを使用する場合もあります。
モデムの仕様や対応技術は、次のような通信性能に関係します。
- 5G・LTEの通信方式や対応バンド
- キャリアアグリゲーション(CA)
- MIMOなどの複数アンテナを利用する通信技術
- 対応できる通信帯域幅や変調方式
- 通信時の消費電力やネットワーク制御
ただし、実際の通信性能はモデムだけで決まるわけではありません。アンテナの配置、RF回路、対応周波数、ソフトウェア、通信事業者のネットワーク環境なども影響します。
そのため、モデムの最大通信速度が高いスマートフォンほど、必ず電波を掴みやすいとは限りません。
SoCとモデムの関係
SoCは、CPUやGPU、AI処理装置などを統合した半導体です。スマートフォン向けSoCには、モデムを統合した製品も多くあります。
| メーカー・シリーズ | 通信チップの構成 |
|---|---|
| Qualcomm Snapdragon | 多くの製品で5GモデムをSoCに統合 |
| MediaTek Dimensity | 多くの製品で5GモデムをSoCに統合 |
| Google Tensor | 世代・機種ごとの構成確認が必要 |
| Samsung Exynos | SoC内蔵型のほか、独立したExynosモデム製品もある |
| Apple Aシリーズ | Aシリーズとは別にモデムを搭載 |
| Huawei Kirin | 世代・機種ごとの構成確認が必要 |
| Xiaomi XRING | 自社開発SoC。通信仕様は製品ごとの確認が必要 |
| UNISOC | モバイル通信機能を統合したSoCを展開 |
ここで注意したいのは、SoCとモデムのメーカーが同じかどうかだけでは、通信性能を判断できないことです。
例えば、独立したモデムを搭載していても、アンテナやRF回路との組み合わせが適切でなければ、通信性能を十分に発揮できない場合があります。
Snapdragon(Qualcomm)
Qualcomm(クアルコム)は、米国の半導体企業です。SnapdragonシリーズはAndroidスマートフォンで広く採用されており、同社はスマートフォン向けモデム・RF技術も展開しています。

出典:Quaicomm
最新世代のモデム技術
2025年に発表されたQualcomm X85 5G Modem-RFは、5G Advancedに対応するモデム・RFシステムです。
メーカー公称の主な仕様は次のとおりです。
- 下り最大12.5Gbps
- 上り最大3.7Gbps
- Sub6で最大6CCのキャリアアグリゲーション
- ミリ波とSub6の両方に対応
- AI処理を利用した通信制御技術
これらはモデムの技術仕様上の最大値であり、一般的なスマートフォンで常に得られる通信速度ではありません。また、実際の端末に搭載される機能や対応バンドは、製品ごとに異なります。
Snapdragonの通信面での特徴
Snapdragonの強みは、モデム単体の性能だけでなく、通信技術の幅広さや、世界各国の通信事業者に向けた製品展開にもあります。
ハイエンド向けでは、高度なキャリアアグリゲーションやMIMO、ミリ波などに対応する製品もあります。
ただし、すべてのSnapdragon搭載機が同じ通信性能を持つわけではありません。エントリー向けとハイエンド向けでは対応機能が異なり、同じSoCを採用した端末でもアンテナ設計などによって結果は変わります。
Dimensity(MediaTek)
MediaTek(メディアテック)は台湾の半導体企業です。Dimensityシリーズは、エントリー向けからハイエンド向けまで幅広いスマートフォンに採用されています。

出典:MediaTek
Dimensityの通信技術
Dimensityシリーズでは、SoCに5Gモデムを統合した製品が多く、CPU・GPU・通信機能を含むプラットフォームとして提供されています。
MediaTekはDimensity 9000シリーズなどのハイエンド製品を展開する一方、7000シリーズや6000シリーズなども用意しています。世代や製品によって通信機能は異なります。
Snapdragonとの違い
Dimensityは、コストと性能のバランスを重視したスマートフォンにも多く採用されています。ハイエンド製品では、高い処理性能に加え、高度な通信機能を備えるモデルもあります。
一方で、「Dimensityはミリ波に弱い」「Snapdragonより受信感度が低い」と、シリーズ全体に当てはめることはできません。ミリ波への対応やキャリアアグリゲーションの仕様は、個々のSoCと端末の仕様を確認する必要があります。
日本で利用する場合も、SoCのブランド名だけで判断するのではなく、ドコモ・au・ソフトバンク・楽天モバイルの必要なバンドに対応しているかを確認することが重要です。
Apple Aシリーズと自社開発モデム
AppleのAシリーズは、iPhoneに採用される独自SoCです。
Aシリーズとは別に携帯電話通信モデムを搭載する構成で、従来のiPhoneではQualcomm製モデムが広く使用されてきました。
しかし、現在はApple独自モデムへの移行も始まっています。
Apple C1・C1X
iPhone 16eでは、Appleが設計した初の独自モデムC1が採用されました。その後、iPhone AirやiPhone 17eではC1Xが採用されています。
Appleの公称値によると、C1XはC1と比べて最大2倍の通信速度を実現し、iPhone 16 Proのモデムと比較して消費エネルギーを30%削減したとされています。これはAppleが示す比較条件に基づく数値です。この動きは、AppleがCPUやGPUだけでなく、通信機能についても自社で設計する範囲を広げていることを示しています。
ただし、C1やC1Xの採用機種と、Qualcomm製モデムを搭載するiPhoneでは、対応機能や仕様が異なる場合があります。Apple製モデムがすべての点でQualcomm製を上回る、あるいは下回ると判断するのは時期尚早です。
また、Aシリーズの処理性能が高いことと、通信性能が高いことは別の話です。モデムの種類、対応バンド、アンテナ設計を分けて考える必要があります。
Google Tensor(Google)
TensorはGoogleがPixel向けに開発するSoCです。CPUやGPUに加え、AI処理や画像処理などを含めたPixel独自の機能を重視しています。

出典:Google
Tensor G5と通信性能
2025年に登場したTensor G5は、TSMCの3nmプロセスで製造される世代です。Googleは、従来世代からのCPU性能やAI処理能力の向上を説明しています。
一方、Tensor G5の通信性能を評価する際は、SoCの製造元だけで判断するべきではありません。
Tensor G2~G4などの世代と、Tensor G5では構成が異なるため、過去のPixelで指摘された通信上の問題を、そのまま新しい世代にも当てはめることはできません。
Tensorは電波を掴みにくいのか
Tensor搭載機については、通信の安定性や発熱、消費電力などを気にする声があります。ただし、これらは機種・世代・使用環境によって結果が異なります。
「Tensorだから電波が弱い」と一括りにするのは適切ではありません。
実際の利用環境で通信性能を判断するなら、対応バンドに加えて、同じ場所・同じ通信事業者での実測や、端末ごとのレビューを確認したいところです。
Exynos(Samsung)
ExynosはSamsungが開発するSoCシリーズです。Galaxyシリーズなどに採用されてきました。SamsungはSoCだけでなく、Exynos Modemシリーズも展開しています。
同社の公式仕様では、Exynos Modem 5410や5400などがSub6とミリ波に対応し、4×4 MIMO(Sub6)などの機能を備えています。実際に利用できる機能は端末側の実装にも左右されます。

出典:Samsung
Exynosの通信性能
Exynosについても、「Snapdragonより必ず通信性能が低い」とは言い切れません。
Galaxyでは、同じ製品名でも販売地域によって搭載SoCが異なる場合があります。そのため、比較する場合はSoCの世代だけでなく、販売地域と端末型番をそろえる必要があります。
通信性能については、モデムの対応機能、RF設計、対応バンド、実測結果などを総合して判断するのが適切です。
Huawei Kirin(ハイシリコン)
KirinはHuaweiのスマートフォン向けSoCシリーズです。CPUやGPU、AI処理などを統合し、Huawei端末向けに展開されています。
Huaweiは米国などによる輸出規制の影響を受けており、半導体の調達や製造面で独自の制約を抱えています。ただし、制約の内容や搭載される通信機能は世代・機種・販売地域によって異なります。
Kirin搭載機を日本で利用する場合は、5G対応の有無だけでなく、国内キャリアの周波数帯への対応、VoLTE、通信事業者による動作確認などを調べる必要があります。「Kirinだから5Gが使えない」「Kirinだから通信性能が低い」と、SoC名だけで結論を出すのは適切ではありません。

出典:HiSilicon(Huawei子会社)
Xiaomi XRING(シャオミ)
Xiaomiは、SnapdragonやDimensityを採用するだけでなく、自社開発のSoCにも取り組んでいます。
その代表例がXRINGシリーズです。

出典:Xiaomi
XRING O1からXRING O3へ
XRING O1は2025年に登場したXiaomiの独自開発SoCです。続くXRING O3は2026年8月に発表され、3nmプロセスを採用するフラッグシップ向けSoCとして展開されています。Xiaomi 18 Foldなどへの採用が発表されています。
XRING O3では、CPU・GPU・AI処理などの強化が進められています。これはXiaomiがスマートフォンの主要部品を自社で設計し、製品全体の最適化や外部サプライヤーへの依存低減を目指していることを示す動きです。
XRING O3のモデム性能は?
ここは慎重に評価したいところです。SoCとしての処理性能が高いことは、モデムの性能や受信感度を直接証明するものではありません。
通信性能を評価するには、少なくとも次の情報が必要です。
- 搭載モデムの仕様と対応通信方式
- 対応する5G・LTEバンド
- キャリアアグリゲーションやMIMOの仕様
- RF回路とアンテナの構成
- 実際の端末での通信速度や受信性能
XRING O3について、これらの通信仕様が十分に確認できない部分は、SnapdragonやDimensityと同等・それ以上などと断定しないほうがよいでしょう。
また、XRINGシリーズの中国向け端末と、日本国内で販売されるスマートフォンでは、対応バンドや通信事業者への対応状況が異なる可能性があります。独自SoCの開発は注目すべき動きですが、日本で使うスマートフォンとして評価するなら、SoCの性能だけでなく国内の通信環境への対応も確認したいところです。
UNISOC(ユニソック)
UNISOCは中国の半導体企業で、エントリー向けスマートフォンなどに採用されるSoCを展開しています。
代表的なシリーズにはTシリーズなどがあり、製品によって4G・5Gの対応状況や通信機能が異なります。
UNISOCについても、「低価格向けだから通信性能が低い」とは限りません。価格帯に応じて機能が異なるため、具体的なSoCと端末を確認する必要があります。
特に日本で利用する場合は、対応バンドやVoLTE、通信事業者との互換性が重要です。海外向けの端末を購入する場合は、製品仕様と国内キャリアの対応状況を照合しましょう。

出典:UNISOC
SoC・モデムの通信性能を比較するときの注意点
各メーカーの通信性能を比較するときは、単純なランキングではなく、評価する項目を分けることが重要です。
| 比較項目 | 確認するポイント |
|---|---|
| 最大通信速度 | モデムの理論値と端末の対応仕様 |
| 電波の掴みやすさ | アンテナ設計、RF回路、受信性能 |
| 通信の安定性 | 混雑時や移動時の挙動、ソフトウェア |
| キャリアアグリゲーション | 対応バンドの組み合わせと通信事業者側の構成 |
| MIMO | 対応するアンテナ構成や通信方式 |
| ミリ波 | モデムだけでなく端末側の対応も必要 |
| 消費電力 | モデム、RF回路、SoC、ソフトウェアなどの総合的な影響 |
| 国内キャリアとの相性 | 対応バンド、VoLTE、事業者の動作確認 |
なお、メーカーが公表する最大速度は、特定の条件で実現する理論上の値です。日本の一般的な利用環境で、その速度が得られることを保証するものではありません。
日本でスマートフォンを選ぶなら、SoCより対応バンドも重要
日本の5Gでは、n77・n78・n79などのSub6帯が利用されています。ミリ波とは別の周波数帯であり、同じ5G対応でも、どのバンドに対応するかによって利用できるネットワークが変わります。
例えば、ドコモで利用するスマートフォンを選ぶ場合、n79への対応は確認しておきたいポイントです。海外向け端末では、5Gに対応していてもn79に対応していない機種があります。
また、楽天モバイルを利用する場合は、Band 3やn77などの対応に加え、パートナー回線を利用するエリアではBand 18・26への対応も確認したいところです。
ただし、対応バンドが多いだけで、必ず電波を掴みやすくなるわけではありません。端末側のアンテナ性能や通信事業者との互換性も重要です。
まとめ:モデムだけで通信性能の優劣は決められない
スマートフォンの通信性能は、モデムの性能だけでなく、対応バンド、アンテナ設計、RF回路、ソフトウェア、通信事業者のネットワーク環境などによって決まります。
Snapdragonは幅広いモデム・RF技術を展開し、Dimensityも幅広い価格帯で高性能な通信機能を提供しています。Appleは独自モデムの採用を進め、GoogleはTensorを通じてPixel向けの最適化を行っています。SamsungのExynosやHuaweiのKirin、XiaomiのXRINGなども、それぞれ独自のSoC・通信技術を展開しています。
ただし、メーカーごとの優劣を一律に決めることはできません。スマートフォン選びでは、SoCのブランドや理論上の最大速度だけでなく、利用する通信事業者の対応バンド、端末のアンテナ設計、実際の通信性能を確認することが大切です。
同じSoCを搭載していても、スマートフォンの機種によって通信性能は変わります。日本で安心して使える端末を選ぶなら、SoCの名前だけで判断せず、端末単位で確認しましょう。
