山間部や離島、災害時など、地上の基地局から電波が届かない場所でもスマートフォンを使えるようにする「衛星とスマホの直接通信」。
楽天モバイルは、米国のAST SpaceMobileと連携し、一般的なスマートフォンと低軌道衛星を直接つなぐサービス「Rakuten最強衛星サービス」の提供を目指しています。
この取り組みは、衛星を使って圏外を補うだけの話ではありません。楽天は2020年からASTの前身企業に出資して技術開発を進めてきたほか、2026年にはJAXAの宇宙戦略基金事業への採択や、国の低軌道衛星インフラ整備事業「J-LEO」での採択も実現しています。
一方、auやソフトバンクでは、SpaceXの「Starlink」を利用したスマートフォン向け衛星通信サービスがすでに始まっています。
この記事では、楽天モバイルの衛星通信サービスの仕組みや開発状況、Starlink Directとの違い、そして2026年に進んだ国の支援事業まで、スマホの通信という視点から解説します。

出典:楽天モバイル
楽天モバイルの「Rakuten最強衛星サービス」とは?
「Rakuten最強衛星サービス」は、楽天モバイルがAST SpaceMobileと連携して提供を目指す、スマートフォンと衛星の直接通信サービスです。
一般的な携帯電話は、地上に設置された基地局を経由して通信します。これに対して衛星ダイレクト通信では、対応するスマートフォンが上空の衛星と直接通信します。
山間部や離島など、地上の基地局を整備しにくい地域でも通信できる可能性があることが大きな特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| サービス名 | Rakuten最強衛星サービス |
| 通信パートナー | AST SpaceMobile |
| 通信方式 | スマートフォンと低軌道衛星の直接通信 |
| 想定する用途 | 音声通話・ビデオ通話・データ通信など |
| 対応端末 | 対応する市販スマートフォンを想定 |
| 提供時期 | 2026年第4四半期を目標として発表 |
| 料金・対応機種 | 商用サービスの正式発表を確認する必要あり |
※提供時期やサービス内容は、開発状況や各種条件によって変更される可能性があります。
楽天はAST SpaceMobileの初期からの出資パートナー
楽天の衛星通信への取り組みは、サービス開始が近づいてから始まったものではありません。
楽天グループは2020年3月、AST SpaceMobileの前身であるAST & Scienceに出資し、戦略的パートナーシップを締結しました。当初から、一般的なスマートフォンを衛星と直接接続するモバイル通信網の実現を目指してきたのです。
その後も両社は技術開発や実証実験を進め、2023年には市販スマートフォンを使った衛星経由の音声通話実験、2025年には国内でのビデオ通話実験を実施しています。
つまり楽天は、衛星通信サービスを単に外部から調達するだけでなく、構想の初期段階から開発に関わってきた企業といえます。
なお、過去の出資実績と現在の株式保有状況は別の話です。2026年春には楽天グループがAST株を売却したとの報道もあるため、現在の出資関係については、最新の公式発表を確認する必要があります。

出典:AST SpaceMobile

JAXAの宇宙戦略基金に採択。地上網との統合技術も開発
2026年2月16日、楽天モバイルの技術開発提案が、JAXAの「宇宙戦略基金」事業に採択されました。
対象となったのは、「衛星通信と地上ネットワークの統合運用の実現に向けた周波数共用技術等の開発・実証」という技術開発テーマです。
スマートフォンの通信では、地上の基地局と衛星が同じ周波数を利用する場合、電波同士の干渉を防ぎながら通信を成立させる必要があります。
そこで楽天モバイルは、AIを活用して衛星通信を管理・制御し、地上ネットワークと衛星ネットワークの間で周波数を効率的に共用する技術の開発を進めます。
目指しているのは、地上の基地局が利用できる場所では地上網を使い、地上の電波が届かない場所では衛星通信を活用するといった、ネットワーク全体の統合運用です。
今回の技術開発テーマ全体への支援総額は最大110億円とされています。ただし、これは楽天モバイル単独への補助額ではありません。
衛星を利用できるようにするだけでなく、地上の携帯電話網とどう連携させるか。ここも、実用的な衛星通信サービスを実現するうえで重要な技術です。
国のJ-LEO事業にも採択。衛星通信網の整備を目指す
2026年6月30日には、総務省が進める「自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業」、通称「J-LEO」の間接補助事業者として、RAST株式会社を申請代表、楽天モバイルを共同提案者とする事業が採択されました。
J-LEOは、日本国内で運用・管理する低軌道衛星通信インフラの整備を支援する事業です。衛星の調達や打ち上げ、地上設備の整備などを対象としており、事業全体の予算規模は約1,500億円です。
この取り組みでは、海外の衛星通信サービスを利用するだけでなく、日本国内で運用・管理する衛星通信インフラを整備し、通信網の自律性を確保することが目指されています。
ただし、J-LEOの採択と、2026年内の提供を目指す「Rakuten最強衛星サービス」は、同じものではありません。
ASTの衛星を利用するサービスの展開と並行して、より長期的な視点で日本国内の衛星通信インフラを整備していく取り組みとして理解するとよいでしょう。
JAXAの宇宙戦略基金が地上網と衛星網の統合に向けた技術開発を支援するのに対し、J-LEOは衛星通信インフラそのものの整備を支援するものです。
楽天の衛星通信事業は、サービスの提供だけでなく、通信技術とインフラの両面から進められています。
BlueBird衛星はどこまで進んでいる?
AST SpaceMobileが開発しているのが、「BlueBird」と呼ばれる衛星シリーズです。
一般的な衛星電話では専用端末が必要になることがありますが、ASTは通常のスマートフォンとの直接通信を目指しています。
そのためには、地上の基地局と比べてはるかに遠い位置にある衛星から、スマートフォンに電波を届けなければなりません。これを実現するため、大型のアンテナなどを利用しています。
大型のフェーズドアレイアンテナを採用
ASTの衛星の特徴のひとつが、大型のフェーズドアレイアンテナです。
フェーズドアレイアンテナは、複数のアンテナ素子を電子的に制御し、電波を送受信する方向を調整する仕組みです。衛星を大型化してアンテナの開口面積を確保することで、一般的なスマートフォンとの直接通信を実現しようとしています。

出典:AST SpaceMobile
| 衛星 | 打ち上げ・開発状況 |
|---|---|
| BlueWalker 3 | 衛星と市販スマートフォンの直接通信を実証した試験衛星 |
| BlueBird 1〜5 | 初期の商用向け衛星群 |
| BlueBird 6 | 2025年12月23日に打ち上げ |
| BlueBird 7 | 2026年4月19日に打ち上げ |
| BlueBird 8〜10 | 2026年6月17日に打ち上げ |
| BlueBird 11〜13 | 2026年8月5日に打ち上げ |
AST SpaceMobileの公表情報によると、2026年には次世代BlueBird衛星の打ち上げが続いています。衛星通信サービスの実現に向けて、実験段階から衛星網の拡充へと進んでいることが分かります。
ただし、衛星を打ち上げたことと、一般ユーザーがいつでも安定して通信できることは別です。必要な衛星数や軌道、地上設備、周波数の利用条件などが整って初めて、安定した商用サービスにつながります。
2025年には国内でビデオ通話を実証
楽天モバイルとAST SpaceMobileは2025年4月、国内で市販スマートフォンを用いた衛星経由のビデオ通話実験を実施しました。
この実験は、衛星通信によって音声通話だけでなく、映像を含むデータ通信も実現できる可能性を示したものです。
ただし、実験でビデオ通話ができたからといって、商用サービスでも常に同じ速度や品質が得られるとは限りません。
実際の通信速度や利用できる機能は、衛星の配置、電波環境、利用者数、地上設備などによって変わります。
普段使っているスマホで衛星と通信できる?
衛星通信と聞くと、専用の衛星電話や特殊なアンテナを備えた端末を想像するかもしれません。
しかし、AST SpaceMobileが目指すのは、市販されている一般的なスマートフォンと衛星を直接接続する仕組みです。
とはいえ、スマートフォンなら何でも自動的に利用できる、というわけではありません。
衛星と通信するためには、使用する周波数帯への対応だけでなく、スマートフォンの無線通信機能、モデム、通信方式、ソフトウェア、ネットワーク側の設定など、複数の条件が関係します。
また、対応する周波数帯を備えていても、サービス側がその端末をサポートしていなければ利用できない場合があります。
商用サービスの開始に向けて、楽天モバイルが公表する対応機種や利用条件を確認する必要があります。
衛星通信でも障害物には注意
衛星は上空にあるため、建物の中や地下、トンネル内などでは通信が難しくなります。
山間部や海上など、地上の基地局が届きにくい場所で役立つ可能性はありますが、衛星との間に山や建物などの障害物があると通信できないことがあります。
「衛星通信だから、どこでも必ずつながる」というわけではありません。
地上の携帯電話網を補完する通信手段として考えることが重要です。
楽天の衛星通信とau・ソフトバンクのStarlink Directは何が違う?
スマートフォンと衛星の直接通信では、楽天モバイルだけでなく、SpaceXのStarlinkを活用するサービスも国内で提供されています。
auでは「au Starlink Direct」、ソフトバンクでは「SoftBank Starlink Direct」が提供されており、ソフトバンクのサービスはワイモバイルやLINEMOの対象プランにも展開されています。
| 比較項目 | 楽天モバイル | au・ソフトバンク |
|---|---|---|
| 衛星事業者 | AST SpaceMobile | SpaceX(Starlink) |
| サービス | Rakuten最強衛星サービス | au Starlink Direct/SoftBank Starlink Direct |
| 基本的な狙い | 衛星経由の音声・映像・データ通信 | 圏外でのメッセージ送受信や対象アプリのデータ通信など |
| 実証・提供状況 | 2026年第4四半期の提供を目標 | 国内サービスを提供中 |
| 利用できる機能 | 商用サービスの正式発表待ち | SMSなどのメッセージや一部対象アプリの通信 |
| 対応端末 | 正式な対応機種・条件の確認が必要 | 対応機種・OS・プランなどに条件あり |
※各サービスの機能や対応条件は変更される可能性があります。最新の公式案内を確認してください。
Starlink Directはメッセージ中心。対象アプリの通信にも対応
「Starlink Directはテキストメッセージしか使えない」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。
auやソフトバンクのサービスでは、メッセージ送受信に加えて、一部の対象アプリでデータ通信を利用できます。ただし、一般的な地上の4G・5G通信と同じように、あらゆるアプリや大容量通信を自由に利用できるわけではありません。
ソフトバンクの「SoftBank Starlink Direct」は、2026年4月10日に国内で提供を開始しました。LINEMOの対象プランにも利用条件の拡充が行われています。2026年9月には海外での利用も始まりました。
一方、楽天モバイルがAST SpaceMobileと目指しているのは、音声通話やビデオ通話を含む、より広帯域な通信サービスです。
ただし、楽天のサービスが提供開始時点からどの程度の速度や機能を実現できるかは、正式なサービス仕様を確認する必要があります。
「楽天のほうが必ず速い」「Starlinkでは通話できない」と単純に決めつけるのではなく、実際に提供される機能や利用条件で比較するのが適切です。

出典:AST SpaceMobile
衛星通信は災害対策や圏外エリアをどう変える?
衛星とスマートフォンの直接通信が普及すれば、これまで携帯電話がつながりにくかった場所で通信手段を確保できる可能性があります。
特に期待されるのが、次のような場面です。
- 山間部や離島など、地上の基地局を整備しにくい地域
- 登山や海上など、携帯電話の電波が届きにくい場所
- 地震や台風などで地上の通信設備が被災した場合
- 地上の基地局が利用できない状況での連絡手段の確保
ただし、衛星通信が使えることと、災害時に必ず通信できることは同じではありません。
衛星の配置や通信の混雑、端末の対応状況、空の見通しなどによって利用できない場合もあります。また、衛星通信が利用できても、すべての通話やデータ通信が地上網と同じように使えるとは限りません。
衛星通信は、地上の携帯電話網を置き換えるというより、地上網が使えない場所や状況を補う技術として期待されています。
商用サービスの開始に向けて確認したいこと
楽天モバイルの衛星通信サービスは実証実験や衛星の打ち上げが進んでいますが、実際に利用するうえでは、まだ確認が必要な項目があります。
料金と対応プラン
既存の楽天モバイルの料金プランに含まれるのか、追加料金が必要になるのかなど、具体的な条件を確認する必要があります。
対応機種と周波数帯
対応する周波数帯だけでなく、端末のモデムやソフトウェア、ネットワーク側の条件も関係します。対応機種の正式な案内が重要です。
通信速度と利用できる機能
音声通話、ビデオ通話、メッセージ、一般的なデータ通信など、どの機能がどの条件で利用できるのかを確認する必要があります。
利用できる場所と時間
衛星の数や軌道、地上設備の整備状況によって、利用できる地域や時間帯が変わる可能性があります。サービス開始当初から、常時・全国で同じ品質を得られるとは限りません。
まとめ:楽天の衛星通信はサービス提供とインフラ整備の両面で進展
楽天モバイルの「Rakuten最強衛星サービス」は、AST SpaceMobileと連携し、市販スマートフォンと低軌道衛星を直接つなぐことを目指す取り組みです。
楽天グループは2020年からASTの前身企業に出資し、技術開発を進めてきました。2023年の音声通話実験、2025年のビデオ通話実験に加え、2026年には次世代BlueBird衛星の打ち上げも続いています。
さらに、楽天モバイルの技術開発提案はJAXAの宇宙戦略基金事業に採択され、RAST株式会社と楽天モバイルを含む事業は、国のJ-LEO事業でも採択されました。
ここで重要なのは、2026年内のサービス提供を目指すASTの衛星を利用した取り組みと、日本国内で運用・管理する衛星通信インフラを整備するJ-LEOの取り組みを区別することです。両者は関連する方向性を持っていますが、目的や時間軸が異なります。
一方、auやソフトバンクではStarlink Directがすでに提供されており、衛星通信は研究・実証の段階から、一般のスマートフォンで使うサービスへと進み始めています。
今後は、楽天のサービスがどの端末に対応し、どの程度の通信品質や利用範囲を実現するのかが注目点です。対応機種や料金などの正式発表を確認しながら、地上の携帯電話網を衛星通信がどう補完していくのかを見ていきたいところです。
筆者は楽天モバイルをメイン回線で使用しています。MVNOから移った本音は以下から👇

※本記事は2026年10月時点で公表されている情報をもとに構成しています。サービス内容や提供時期、対応機種などは今後変更される可能性があります。


